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- 2006.11.07
- よくある質問
紀子さまが悠仁さまをご出産された際に、へその緒の血液を提供された話はマスコミによって大きく報道されました。通常へその緒は胎盤とともに、分娩後に廃棄されることになりますが、そこに残った臍帯血(さいたいけつ)には多くの造血幹細胞が含まれています。骨髄から採取した造血幹細胞を用いた骨髄移植が、白血病治療に欠かせないことについては皆さんご存じのことと思いますが、臍帯血から分離した造血幹細胞を用いる臍帯血移植も、白血病治療などへの臨床応用が進んできています。
臍帯血移植については、現在全国に11の公的臍帯血バンクが設立されてネットワークを形成し、造血幹細胞の分離と保管、そして医療機関からの照会に対応しています。近畿では、京阪臍帯血バンクと兵庫臍帯血バンクが公的臍帯血バンクとして認可されていますが、奈良県には公的バンクは存在しません。したがって皆様に臍帯血提供の申し出をいただいても、残念ながらそれを生かすことは出来ません。
じつは過去に奈良にも、私が長く在籍した奈良県立医科大学の輸血部が中心になって設立された臍帯血バンクが存在しました。この奈良バンクは、臨床研究の段階では兵庫臍帯血バンクなどとともに、臍帯血幹細胞移植の臨床応用をめざす近畿臍帯血バンクの中核組織でした。私は当時産科の医長として臍帯血の採取と、輸血部との調整を担当していましたが、最盛期には県内数施設の協力を得て、多くの臍帯血を採取することが出来ていました。関西テレビのイブニングニュースに取り上げられたときも、移植の取材は大阪の施設でしたが、採取と分離の取材は奈良まで来られました。実際の放映は2~3分ほどだったと思いますが、私が患者様から同意を得ているところも取り上げられました。
しかし奈良バンクは、主に財政上の問題から公的臍帯血バンクにはなり得ませんでした。具体的には設立母体、地方自治体、国にそれぞれ1/3の財政負担が求められたため、設立母体が県立医大であった奈良バンクは、地方自治体の費用負担が過大となって当局の理解が得られなかったのです。奈良バンクは、何例かの白血病の方の治療に役立ったようですが、こうして臨床研究の段階でその役割を終えました。当時のことを思い出すと、今でも悔しい気持ちが蘇ってきます。
つい昔話をしてしまいました。
というわけで、SACRAでお産みいただく皆様の臍帯血提供のご厚意は、その気持ちだけをいただきたいと思います。
ちなみに、公的臍帯血バンクとは別に、赤ちゃん自身のために臍帯血から造血幹細胞を分離して保管してくれる会社もあります。分娩時の母児に異常があった場合はその対応を優先するので採取できない可能性があること、また採取出来ても細菌汚染のために使用できない可能性もあることをご了解いただければ、当院でも採取に協力できます。
○○○セル研究所などが有名で、妊婦雑誌などに広告が出ていると思いますが、あくまでもコマーシャル・カンパニーです。保存した幹細胞が実際の治療に利用可能かなどについては、当院では確認できません。分離できた幹細胞数によるものの、小児期に発症した白血病治療にしか利用できない可能性が高く、使用されずにデッドストックになるのがほとんどと予想されます。
ご質問があれば私の知る範囲でお答えしますが、最終的にはご自身で判断いただくことになると思います。
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- 2006.08.13
- よくある質問
よくある質問6 : 「お腹が前にでているから男の子だわ!」って言われるんですけど・・・
SACRAでは毎回超音波を行って、お腹の中の赤ちゃんの性別をお知りになりたい方には分かる範囲でお伝えしています。もちろん妊娠の時期(28週ごろが一番見やすい)や赤ちゃんの向き(赤ちゃん背中を上にしていると隠れて見えません)により、分かりにくいことはありますが、何回か行えばわかることのほうが多いです。
世の中にはその出典がはっきりしないお腹の赤ちゃんの性別判定法があるようです。
ネットでみつけたものをいくつか列記しますと、
1.ママのお腹の形が前に突き出すと男の子、丸く横広くなると女の子
2.ママの顔つきが険しくなると男の子、優しくなると女の子
3.つわりが軽いと男の子、きついと女の子
4.すっぱいものを食べたくなると男の子、甘いものを食べたくなると女の子
もちろん医学的にはすべて根拠のないものです。
あなたのご近所にはお腹の中の赤ちゃんの性別を的中させる名人のような方がいらっしゃったとしても、冷静に考えれば世の中には男の子か女の子しかいないわけですから、普通に予想してもその的中率は50%とかなりの確率になるのです。
「お腹が小さ過ぎない?」とか「お腹大きすぎと違う?」などといって妊婦さんを心配させるのはどうかと思いますが、周りの皆さんが妊婦さんのお腹を見て生まれてくる赤ちゃんに思いをはせることは決して悪いことではありません。
みんな新しい命の誕生を心待ちにしているのです。
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- 2006.08.07
- よくある質問
以前にも書きましたが、妊娠中に口にされたものは妊婦さん本人だけでなく赤ちゃんの血となり肉となるものですので、できるだけ栄養のバランスを考えて、十分な量を安全にとる必要があります。しかし同時に妊娠中の体重増加を考えると、特に妊娠中期以降は適度な運動も併用しながら、脂分と糖質はやや控えめでちょうどよいくらいかと思われます。また不足しやすい葉酸・鉄・カルシウムについては、サプリメントの使用するのも有効です。
たんぱく質は、単一のものを大量にとるとアレルギーの原因となる可能性もあるため、お肉、お魚、卵、大豆、牛乳などできるだけ多くの種類の食材を組みあわせて摂取することが望ましいと考えられます。また一般的にたんぱく質は加熱により変性して消化吸収がよくなるため、アレルギー予防の側面からも生ものよりは過熱したもののほうがよいと思われます。また季節にもよりますが食中毒のリスクや、生肉など特殊な食材の場合はトキソプラズマ症や寄生虫のリスクもあります。
ただ生ものは絶対にだめというわけではなく、生貝や生肉などは別として、新鮮でおいしいお寿司やおつくりを、たまに少量お食べになるくらいは構わないのではないでしょうか。
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- 2006.08.01
- よくある質問
最近オール電化のお宅やマンションが増えてきて、外来で上記のようなことをよく聞かれます。つまりは電磁波の妊娠や胎児に対する影響はどうなのかという趣旨のご質問ですが、結論から申しますと「現時点では悪影響があるかどうか分からないが、少なくとも悪影響があるという確たる証拠はない」ということになると思います。
電磁波の健康への影響は、何年か前に高圧送電線の周辺で小児白血病が多いという疫学調査結果が出たり、またそれを否定する報告がなされたりと、その危険性については現時点では明確な位置づけがなされていないのが現状です。Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E6%B3%A2)によると、WHOも送電線などから発生する低周波磁場を「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」(Possibly carcinogenic to humans)と分類しているようですが、これはコーヒーやガソリンエンジンの排ガスと同じレベル(2001年)です。
残念ながら現代社会に暮らして文明の恩恵を受ける限り、電磁波とは無縁ではいられません。また電磁波だけではなく、食物中には種々の環境汚染物質も混入しています。無農薬で育てた野菜や天然ものの魚ですら、低レベルながらダイオキシンや水銀を含有しています。また出産後の赤ちゃんが口にする母乳中のダイオキシン濃度が、比較的高レベルであることもよく知られています。しかし生体には種々の防衛システムが備わっていますので、赤ちゃんが簡単にやられてしまうわけではありません。
電磁波についてはインターネット上でその危険性を喧伝する情報が氾濫しています。私自身は、稼働中の電子レンジやIHの機器に用もないのにへばりつくのは避けた方が良いですが、過度に敏感になる必要はないと思いますがいかがでしょうか。
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- 2006.07.12
- よくある質問
「妊娠5ヶ月に入ったら戌の日に安産祈願の腹帯を巻く」のが常識、というのは実は日本だけのようです。私も詳しく調べたわけではありませんが、中国にもそのような風習は無いのだとか。少なくとも私がいた頃の英国の妊婦さんは、皆さん腹帯ではなく当時流行していた臍だしシャツを着ておられました(笑)。
腹帯の歴史と巻き方については、All About“図入り解説で腹帯を大解剖!腹帯の由来・種類・巻き方”(http://allabout.co.jp/children/childbirth/closeup/CU20020519/)に詳しく述べられています。私自身は、日本の文化である「大切なものを包む、風呂敷の文化」と大いに関連すると思いますがいかがでしょうか。
腹帯は医学的には必ずしも必要というわけではありません。しかし大切なお腹は冷やすよりは暖めた方が良く、それなりの効果もあると考えられます。ただし、あまり締め付け過ぎると背骨と子宮の間にある下大静脈や腹腔神経節が圧迫されて、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)の発症に関与するとの指摘もあります。
というわけで結論です。
腹帯は医学的には必ずしも必要ありませんが、大切な赤ちゃんの健やかな誕生を心待ちにされるおじいちゃん・おばあちゃんの意見も聞いて、あまりきつくない程度に巻かれるのが良いのではないでしょうか。またこれからの暑い季節は、さらしの腹帯を何重にも巻かれる必要はないように思います。
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- 2006.07.04
- よくある質問
妊娠中に自転車・自動車に乗ってよいかという質問もよくお受けします。
たまに耳にする、「自転車に乗ると振動のために流産する」という話は医学的には根拠が乏しいと思われますが、妊娠してお腹が出てくると体のバランス感覚も変化してきて転倒などの危険があり、自転車に乗ることはあまり勧められません。お買い物などで荷物が多い場合は、荷物だけを載せて自転車を押されるほうがよいと思います。
自動車は、交通事故のことを考えると乗らないに越したことはありません。特に妊娠末期にご自身が運転して事故にあわれた場合は、ハンドルで腹部が圧迫されて、予期しないような重大な結果につながる可能性もあります。またシートベルトは重大事故の際の母体の救命を考えるとしたほうが安全ですが、妊婦のために設計されたものではありません。
ただし交通事故に巻き込まれる確立は高いわけではありませんので、遠隔地に行かなければならなくて、他の交通機関が極端に不便であるのなら、注意して自動車に乗られるのも1つの方法です。
いずれにしても、ある場所に移動するにあたっては、「そこに行かなければならないのか」、「行かなければならないなら、どの移動手段が楽で安全か」を考えて移動手段を決められれば良いと思います。
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- 2006.06.30
- よくある質問
夏休みも近くなり、最近外来で「妊娠中に旅行に行っていいですか?」とよく質問されます。今日はそんな時にいつもお答えしていることを書きたいと思います。
旅行は妊娠だけのことを考えれば、飛行機などの過密状態でSARS(重症急性呼吸器症候群)に限らず種々のウイルスに感染したり、移動中に事故に巻き込まれる可能性もあり、妊娠中は避けた方が無難ということになります。しかし時期さえ選べば、妊娠中でも旅行を楽しんでいただくことは不可能ではありません。たとえば妊娠初期や末期には勧められませんが、いわゆる安定期(妊娠20週~)に入ってから妊娠31週くらいまでは、海外も含めて比較的安全にご旅行いただけると思います。
もちろん旅行に行かれる場合は、無理なプランやご馳走の食べすぎなどを慎み、飛行機などを利用される場合は手洗い・うがいの励行、そして長時間移動の場合は足を動かすなどして深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)などの予防を心がける必要があります。また念のため、母子手帳も持参下さい。海外旅行の場合は、万一に備えた英文の紹介状も作成できますのでご相談下さい。また車で移動される場合は、くれぐれも交通事故には気をつけて、余裕を持ったスケジュールを組まれることをお勧めします。