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- 2006.09.04
- 連絡事項
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- 2006.08.17
- 役に立つ?情報
A rolling stone gathers no moss ―帝王切開術後に動け動けと言うのは患者さんが憎いからではありません
SACRAで帝王切開を行った場合の入院期間は、帝王切開当日を入れて8日間です。もちろん母体の回復状況により、数日間の入院延長が必要なこともありますが、ほとんどの方は予定通りに退院されています。
これは手術翌日の午前中に尿道カテーテルを抜いて室内トイレまで歩いていただき、それ以後もどんどん体を動かしていただくことによって可能になります。私と橋本先生で行うSACRAの帝王切開が手術時間30分程度で、腰椎麻酔も最も細い針を用いて行うため術後の安静期間が短くて済むためこのような早期の離床が可能なのですが、何よりも患者さん本人のご努力によるところが大きいです。
以前のブログの「お産の安全性」のところに記しましたように、分娩にはなお一定の危険が付きまといます。分娩時の大量出血は過去も現在もその危険の最たるものですが、最近注目されているのが逆に血液が固まりすぎてしまう状態です。これはエコノミークラス症候群の名前で一般に知られていますが、その本態は過度の安静などにより骨盤内や下肢の静脈内で血液が固まってしまって(深部静脈血栓症)、安静を解除した時にその血の塊(血栓)が血流に乗って飛んで肺動脈を閉塞する状態(肺血栓塞栓症)です。症状は飛んだ血栓の大きさと肺動脈の閉塞の程度に左右されますが、運悪く大きな血栓が飛んで肺動脈を起始部で塞いでしまった場合には、大学病院などの高度医療機関で発症した場合でも救命のチャンスは多くはありません。
妊娠中ならびに分娩直後は、母体の血液凝固能(血が固まる力)が出血に備えて高まっていることや、子宮の圧迫により下肢の静脈の流れが滞りやすいことから血栓が生じやすく、手術による組織のダメージに引き続いて術後の安静を強いられる帝王切開後は特に深部静脈血栓症の危険が増すと考えられています。
私は大学時代から日本肺塞栓研究会に参加してその分野の臨床研究にも携わってきました。SACRAではその知見を生かして、肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症の予防対策に力を入れています。予定帝王切開の場合は、手術当日まで通常の生活をしてしっかり体を動かしておいてもらいます。入院後は、術前から十分な輸液を行って血液が濃くなって凝固能が亢進するのを防ぎ、下肢には静脈の拡張を防ぐ弾性ストッキングを着用していただきます。それに加えて、多くの症例では手術中から離床まで空気圧を利用した下肢静脈ポンピング装置を装着します。そして何よりも有効なのが、麻酔が醒めたら出来るだけご自身で足を動かして、早期に離床していただくことなのです。
英語のことわざに“A rolling stone gathers no moss(転石苔を生ぜず)”があります。元々はmoss(苔)を良いものとして「石の上にも3年」に近い意味のことわざですが、転じてmossを悪いものと捉え、常に動き続けることを奨励し、新しいことへのチャレンジを促す意味にも使われます。
人の体は川の中で転がる石のように、常に動き続けるほうが自然なのです
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- 2006.08.13
- よくある質問
よくある質問6 : 「お腹が前にでているから男の子だわ!」って言われるんですけど・・・
SACRAでは毎回超音波を行って、お腹の中の赤ちゃんの性別をお知りになりたい方には分かる範囲でお伝えしています。もちろん妊娠の時期(28週ごろが一番見やすい)や赤ちゃんの向き(赤ちゃん背中を上にしていると隠れて見えません)により、分かりにくいことはありますが、何回か行えばわかることのほうが多いです。
世の中にはその出典がはっきりしないお腹の赤ちゃんの性別判定法があるようです。
ネットでみつけたものをいくつか列記しますと、
1.ママのお腹の形が前に突き出すと男の子、丸く横広くなると女の子
2.ママの顔つきが険しくなると男の子、優しくなると女の子
3.つわりが軽いと男の子、きついと女の子
4.すっぱいものを食べたくなると男の子、甘いものを食べたくなると女の子
もちろん医学的にはすべて根拠のないものです。
あなたのご近所にはお腹の中の赤ちゃんの性別を的中させる名人のような方がいらっしゃったとしても、冷静に考えれば世の中には男の子か女の子しかいないわけですから、普通に予想してもその的中率は50%とかなりの確率になるのです。
「お腹が小さ過ぎない?」とか「お腹大きすぎと違う?」などといって妊婦さんを心配させるのはどうかと思いますが、周りの皆さんが妊婦さんのお腹を見て生まれてくる赤ちゃんに思いをはせることは決して悪いことではありません。
みんな新しい命の誕生を心待ちにしているのです。
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- 2006.08.10
- 役に立つ?情報
秋篠宮妃の紀子さまが前置胎盤だと言うことは皆さんニュースでご存知のことかと思います。幸い現在のところは非常に順調に経過されており、9月6日に帝王切開によりご出産になられる予定だそうです。
前置胎盤は子宮頚管に胎盤がかかっている状態(イラスト)で、陣痛が来て子宮頚管が開くと大量出血が生じる可能性があります。現代医学の発達により妊娠中の超音波検査(経膣法)で診断ができるようになり、陣痛が来て大量出血をきたす前に帝王切開を行って母児ともに救命することが可能になりましたが、過去には死に至る病でした。また現在でも、癒着胎盤などを合併している場合には帝王切開を行っても危険な状態になることもあります。
出生10万当たりの妊産婦死亡率
1950年(昭和25年) 176.1
1955年(昭和30年) 178.8
1965年(昭和40年) 87.6
1975年(昭和50年) 28.7
1985年(昭和60年) 15.8
1995年(平成07年) 7.2
2001年(平成13年) 6.5
これは戦後の妊産婦死亡率(出生10万人あたり)の変化です。高度成長期を境に急速に低下しているのが分かります。これは過去に主流であった自宅分娩が減少して病院・診療所での分娩が一般化したこと、医学が発達して前置胎盤などの危険な状態が分娩前にわかるようになったこと、妊婦さんの啓蒙が進んで体重管理などが徹底し、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)などの危険な合併症が減ったことによるところが大きいと考えられます。つまりこの成果は、過去の産婦人科医ならびに助産婦、そして妊婦さんご自身のたゆまぬ努力によって、成し遂げられてきたものなのです。
ただ残念ながら現在もなお0にはなっておらず、分娩にはなお一定の危険が伴います。お産というのは、妊婦さんが命がけで新しい命を作り出す、崇高な作業なのです。
SACRAでは緊急時にそなえて、橋本先生と私の常勤医2名の体制をとっています。
また母児の状態を慎重に評価して、前置胎盤などの症例は分娩前に高度医療機関に紹介しています。さらに分娩時の弛緩出血などの事前の予測が不可能な事態には、場合によっては大学に緊急搬送して高度な医療が受けられるような連携体制を整えています。
「お産は案ずるより産むが安し」というのもまた事実ですが、リスクを認識してそれを最小限にするように妊婦さんとともに努力することが、お産の安全性をより高めるものと私は考えます。
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- 2006.08.07
- よくある質問
以前にも書きましたが、妊娠中に口にされたものは妊婦さん本人だけでなく赤ちゃんの血となり肉となるものですので、できるだけ栄養のバランスを考えて、十分な量を安全にとる必要があります。しかし同時に妊娠中の体重増加を考えると、特に妊娠中期以降は適度な運動も併用しながら、脂分と糖質はやや控えめでちょうどよいくらいかと思われます。また不足しやすい葉酸・鉄・カルシウムについては、サプリメントの使用するのも有効です。
たんぱく質は、単一のものを大量にとるとアレルギーの原因となる可能性もあるため、お肉、お魚、卵、大豆、牛乳などできるだけ多くの種類の食材を組みあわせて摂取することが望ましいと考えられます。また一般的にたんぱく質は加熱により変性して消化吸収がよくなるため、アレルギー予防の側面からも生ものよりは過熱したもののほうがよいと思われます。また季節にもよりますが食中毒のリスクや、生肉など特殊な食材の場合はトキソプラズマ症や寄生虫のリスクもあります。
ただ生ものは絶対にだめというわけではなく、生貝や生肉などは別として、新鮮でおいしいお寿司やおつくりを、たまに少量お食べになるくらいは構わないのではないでしょうか。
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- 2006.08.01
- よくある質問
最近オール電化のお宅やマンションが増えてきて、外来で上記のようなことをよく聞かれます。つまりは電磁波の妊娠や胎児に対する影響はどうなのかという趣旨のご質問ですが、結論から申しますと「現時点では悪影響があるかどうか分からないが、少なくとも悪影響があるという確たる証拠はない」ということになると思います。
電磁波の健康への影響は、何年か前に高圧送電線の周辺で小児白血病が多いという疫学調査結果が出たり、またそれを否定する報告がなされたりと、その危険性については現時点では明確な位置づけがなされていないのが現状です。Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E6%B3%A2)によると、WHOも送電線などから発生する低周波磁場を「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」(Possibly carcinogenic to humans)と分類しているようですが、これはコーヒーやガソリンエンジンの排ガスと同じレベル(2001年)です。
残念ながら現代社会に暮らして文明の恩恵を受ける限り、電磁波とは無縁ではいられません。また電磁波だけではなく、食物中には種々の環境汚染物質も混入しています。無農薬で育てた野菜や天然ものの魚ですら、低レベルながらダイオキシンや水銀を含有しています。また出産後の赤ちゃんが口にする母乳中のダイオキシン濃度が、比較的高レベルであることもよく知られています。しかし生体には種々の防衛システムが備わっていますので、赤ちゃんが簡単にやられてしまうわけではありません。
電磁波についてはインターネット上でその危険性を喧伝する情報が氾濫しています。私自身は、稼働中の電子レンジやIHの機器に用もないのにへばりつくのは避けた方が良いですが、過度に敏感になる必要はないと思いますがいかがでしょうか。
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- 2006.07.31
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- 2006.07.20
- 役に立つ?情報
最近新聞などで、分娩可能な施設が減少しているとの報道を目にすることが多くなりました。特に山間部などでの影響が深刻なようで、地域によっては分娩施設まで2-3時間もかかることもあるようです。
しかし実は日本のように、分娩可能な施設が多数あって施設を選んで分娩できるのは例外的です。米英など多くの先進国は医療圏に1つの大規模分娩施設を整備するセンター分娩制をとっており、私が滞在した英国ニューカッスル大学、Royal Victoria Infirmaryの分娩センターも、市内だけでなく周辺地域(人口ベースで数十万人)から年間約5000の分娩を受け入れていました。
こういった効率優先のセンター分娩制ではなく、ホスピタリティーあふれる助産院から、最先端の設備とスタッフをそろえた大学病院まで、種々の施設から分娩場所を選択できる日本は、妊婦さんにとって非常に恵まれた環境にあるといえるかも知れません。
だからこそ分娩施設の選択は大事なことだと思います。ホスピタリティーを考えれば一人の助産師が付ききりで分娩介助を行い、母乳・育児を指導する助産院にかなう施設はありません。逆に、母児の緊急事態への対応の懐の深さでは大学病院などの高度医療機関の方に分があります。また自宅から分娩施設までの距離は近いほうが有利です。ただ母児の緊急事態も、「有効な陣痛が来ているのに分娩が進行しない」、「胎児がこれ以上のストレスに耐えられない」などの理由で陣痛が来てから帝王切開が必要となる局面は時に生じますが、一刻を争わなければ母児の生命に関わるようなことは稀です。またほとんどの分娩は、陣痛が来て分娩にいたるまで数時間から十数時間かかるため、分娩施設が自宅のとても近いところにないといけないわけではあません。
SACRAでは事前にお書きいただいたバースプランを出来る限り尊重しながら、母児の安全を第一に考えた分娩管理を行っています。そのため胎児心拍の異常の有無を確認するために分娩監視装置を装着し、分娩時の出血に備えて静脈ルート確保(ブドウ糖の点滴)も行います。また緊急時に備えて大学と連携しながら、私と橋本先生の常勤医師2名で緊急帝王切開などに対応できる体制をとっています。
分娩施設を選ぶのに、何を第一義と考えるかは患者様それぞれ違うと思います。もし「分娩監視装置も静脈ルート確保もいらない、とにかくホスピタリティーあふれる“自然”な分娩をしたい」ということなら、SACRAよりも助産院が最適ということになります。それ以外にも、担当の医師や他のスタッフとの相性なども大事なポイントだと思います。とにかく、ご自身が納得できる施設を選んで分娩されることが一番だと思います。
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- 2006.07.12
- よくある質問
「妊娠5ヶ月に入ったら戌の日に安産祈願の腹帯を巻く」のが常識、というのは実は日本だけのようです。私も詳しく調べたわけではありませんが、中国にもそのような風習は無いのだとか。少なくとも私がいた頃の英国の妊婦さんは、皆さん腹帯ではなく当時流行していた臍だしシャツを着ておられました(笑)。
腹帯の歴史と巻き方については、All About“図入り解説で腹帯を大解剖!腹帯の由来・種類・巻き方”(http://allabout.co.jp/children/childbirth/closeup/CU20020519/)に詳しく述べられています。私自身は、日本の文化である「大切なものを包む、風呂敷の文化」と大いに関連すると思いますがいかがでしょうか。
腹帯は医学的には必ずしも必要というわけではありません。しかし大切なお腹は冷やすよりは暖めた方が良く、それなりの効果もあると考えられます。ただし、あまり締め付け過ぎると背骨と子宮の間にある下大静脈や腹腔神経節が圧迫されて、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)の発症に関与するとの指摘もあります。
というわけで結論です。
腹帯は医学的には必ずしも必要ありませんが、大切な赤ちゃんの健やかな誕生を心待ちにされるおじいちゃん・おばあちゃんの意見も聞いて、あまりきつくない程度に巻かれるのが良いのではないでしょうか。またこれからの暑い季節は、さらしの腹帯を何重にも巻かれる必要はないように思います。
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- 2006.07.04
- よくある質問
妊娠中に自転車・自動車に乗ってよいかという質問もよくお受けします。
たまに耳にする、「自転車に乗ると振動のために流産する」という話は医学的には根拠が乏しいと思われますが、妊娠してお腹が出てくると体のバランス感覚も変化してきて転倒などの危険があり、自転車に乗ることはあまり勧められません。お買い物などで荷物が多い場合は、荷物だけを載せて自転車を押されるほうがよいと思います。
自動車は、交通事故のことを考えると乗らないに越したことはありません。特に妊娠末期にご自身が運転して事故にあわれた場合は、ハンドルで腹部が圧迫されて、予期しないような重大な結果につながる可能性もあります。またシートベルトは重大事故の際の母体の救命を考えるとしたほうが安全ですが、妊婦のために設計されたものではありません。
ただし交通事故に巻き込まれる確立は高いわけではありませんので、遠隔地に行かなければならなくて、他の交通機関が極端に不便であるのなら、注意して自動車に乗られるのも1つの方法です。
いずれにしても、ある場所に移動するにあたっては、「そこに行かなければならないのか」、「行かなければならないなら、どの移動手段が楽で安全か」を考えて移動手段を決められれば良いと思います。